大阪生まれの僕が、京都に下宿し25年がたった。大学生だった僕も就職し、結婚し、子供が生まれ、独立し、と家族構成や生活環境が変化し、それに合わせるように借家の引越を繰り返してきた。
借家は、そこでの生活に合わせて増改築などをした場合、出ていく時には借りる前の状態に戻してから大家に返すことが、条件になってしまっている。しかし、できるだけ既存部分に手を加えずに増改築し、またその構成部材の単位を家財道具のように小さくすることで、引越の際には共に移動させ、そこでの条件に合わせて活用すれば、毎回その家を積極的に住みこなすことができると考えた。
現在は、「借家4」に引越し、家族6人、住居とその一部を事務所として使用し、次への展開の準備をはじめながら、日々改良を加えつつ生活している。
借家生活1 |
借家生活2 |
借家生活3' |
借家生活4 | ||||
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家族構成; 単身〜
夫婦+子供1人 |
家族構成; 夫婦+
子供2人〜4人 |
家族構成;
夫婦+子供4人〜 |
家族構成;
夫婦+子供4人〜 +犬一匹 |
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増築床面積;8m2 | 増築床面積;8m2 | 増築床面積;4m2 | 増築床面積;2m2 |
「借家生活2」
「借家2」は、周辺の環境にも恵まれ、建物も古いながらも質の良い借家であったが、風呂がなく、2階建てのため上下階に居室が分かれているので、大人数が集まる時にはスペースが足りないと感じた。そこで1階の居間と内外一体として使うことができるデッキを庭に設け、また工務店の倉庫にあまっていたユニットバスの床と壁パネルの1枚をゆずりうけ、露天風呂として再生した。
工事は、毎年のように春先に引越を繰り返し年中行事のようになっていたにもかかわらず、多数の友人の協力を得て行なうことができた。工務店で柱梁の仕口の加工をしてもらった部材を、家財道具同様に運び込み、金物を使わず組立て、コンクリートブロックを並べただけの基礎に、差し込んだ。デッキの床板も数枚を1単位として可動な状態とするなど、納まりは全て次の借家への移動や日々のメンテナンスを可能なようにした。
「借家2」では、大家との事前交渉の結果、隣接する住居への配慮などから、計画の全てが実現するところまでは至らなかったが、庭に設けたデッキは、バーベキューをしたり、ブランコやプールなどの遊具を置いたり、と建物内部は狭いながらも、居間と内外一体に利用することができる。また露天風呂は、夏にはすだれとカーテンだけで間仕切り、行水気分を味わい、冬には梱包用のプチプチシートで浴室全体を包み込み断熱・保温効果を実感しつつ、温泉地のような雪見風呂を楽しんだりすることができる。
日々著しいスピードで成長していく子供達と共に、建物に手を加えながら、自然や季節をより身近に感じられる生活を楽しんでいる。
「借家生活」で実感した、建築は固定化されたものではなく、移動可能なものであるという考え方は、その後のいろいろなプロジェクトの基本的な部分となっていて、季節や菜園に植える作物に合わせて家を変化させながら、生活するという住宅のプロジェクト「今月の吉村家」にも応用されている。また展覧会で「借家生活」の展示を見て共鳴した、「浮遊」をテーマに創作活動を続けるアーティスト奥田エイメイ氏との共同作、引越・変化し続けるカフェ・ギャラリー「浮遊代理店」でも試みられている。
引越や工事は、毎回多数の友人の協力を得ている。工務店で柱梁の仕口の加工をしてもらった部材を、家財道具同様に運び込み、自分達で組立て…ということを、繰り返している。
↓引越
「借家生活3」
「借家3」では、かつては建具屋さんの倉庫であった。ロフトも含め3層に渡る空間に、住居、事務所、作業場、ギャラリーが混在したような、フレームキットを挿入した。今、非常に興味のある、常に自分を刺激するものや人を探し、呼び寄せ、企画展示していくというギャラリ−というものや、いろんな人が出入りし利用するような作業場、4人の子供に翻弄される日常生活の場などが、空間的にも入り交じり互いに影響を与えあうような生活が、展開されている。
↓引越
「借家生活4」
ギャラリーに増築部材が組み込まれ居住空間になる「借家4」は、郊外の狭小変形敷地に、恵まれた自然環境を活かし最小限の構造体で空間を確保したギャラリーとして新築した。
ここに ギャラリーのひとつの企画展として、「借家生活」という未完成の作品が増築部材とともに搬入・設営され、自然環境と家族がより良い関係を保ちながら変化し完成に近づけていく。しかしまた形を変えた家族は、次の表現の場所を求めて搬出していくことになる。
ギャラリー
ギャラリーに増築部材が運び込まれる
使い慣れたスケール感の子供室の再現